太一は、自分には他の人には見えない怪異が見えるという特異体質を持っていました。
そのせいで、周りから変わり者扱いされることも多く、友達が数少なかったのです。 しかし、そんな太一が唯一仲が良かったのが健太でした。 健太は太一と同じ高校に通う部活仲間で、太一の体質を知っていても気にしないで付き合ってくれる数少ない人でした。 ある日、部活の休憩中に健太から不思議な話を聞きました。 健太の父親は病院で働いていて、その病院の敷地に忍びこんだ野生の大型犬の目撃証言を聞いたというのです。 「どうやら保健所から逃げ出したらしいんだけど、その犬がなんと馬車を引きながら病院に入ってきたんだって」 健太は目を輝かせて言いました。 太一は驚いて聞き返しました。 「馬車?」 「そう、馬車。しかも人間が乗ってるんじゃなくて、犬が自分で引いてるんだってさ」 「それはおかしいな」 太一は首を傾げました。健太は興味津々に言いました。 「だろ?それでさ、その犬が病院の中で何か探してるみたいに色んな部屋に入り込んで行ったんだって。 でも結局見つからなかったらしくて、また馬車に乗って出て行ったんだ」 「何を探してたんだろうね」 太一は不思議そうに言いました。健太は顔を近づけて言いました。 「さあ、わからないけど、その犬が見えるかどうか確かめてみたくない?」 「え?」 太一は驚きました。 「太一は怪異が見えるんだろ?もしかしたらその犬も怪異なのかもしれないよ」 「そうかもしれないけど……」 太一は迷いました。 「じゃあさ、今日の部活の後に一緒に病院に行ってみようよ!面白そうじゃない?」 健太は太一の腕を引っ張りました。 太一は健太の動機に少し戸惑いましたが、健太の誘いに乗ることにしました。 その日の部活が終わると、二人は直ぐに自転車で病院に向かいました。 病院は市街地から少し離れた山の中腹にありました。周りは森林に囲まれており、静かで落ち着いた雰囲気でした。 二人は自転車を置いて敷地内に入ろうとしましたが、すぐ外に野生の大型犬が現れました。 「あれが……!」 健太は驚いて指さしました。大型犬は黒くて毛むくじゃらで、目つきが鋭かったのです。それはまるで狼のようでした。 大型犬は二人に気づくと唸り声を上げて走り寄ってきたので、二人は慌てて後ずさりしました。 「やばいやばいやばい!」 健太は叫びました。 「逃げろ!」 太一も言いました。 二人は必死に逃げようとしましたが、大型犬は速く今にも追いつかれそうでした。 太一は怖くて目を閉じました。 すると、突然辺りに銃声が響きました。 「バン!」 太一は目を開けました。 大型犬は倒れていました。 血は流れていませんでしたが、動かなくなっていました。 「な、なんで?」 太一は呆然としました。 「あそこだ!」 健太は遠くを指さしました。離れた場所から、猟銃を持った男が走ってきたのです。 「おいおい、大丈夫か?危なかったな」 男は息を切らしながら言いました。 「あ、あの……」 太一は言葉に詰まりました。 「あの犬は保健所から逃げ出した野良犬だ。俺は保健所の職員で、追跡してたんだ。銃弾には麻酔が入ってるから、殺してないよ。でも、残念ながらこの犬は後日殺処分されることになってるんだ」 男は残念そうに言いました。 「え?」 太一は驚きました。 「どうして?」 健太も聞きました。 「この犬は人に危害を及ぼす可能性が高いからだ。それに、この犬に飼い主はいない。誰も引き取ってくれないんだ」 男は二人にそう説明しました。 「でも……」 太一は言いかけましたが、男は首を横に振りました。 「もう決まってることだ。文句があるなら保健所に言ってくれ。 俺も気の毒に思うけど、仕方ないんだよ」 男はそう言って、大型犬を担ぎ上げて歩き出しました。 大型犬を担いで離れていく男の背中を呆然と見送った太一と健太でしたが、その時、太一の耳に小さな声が聞こえました。 『ねえ、君には僕の声が聞こえるでしょ?』 太一は驚いて後ろを振り向きました。 そこには大型犬が倒れているはずの場所に、小さな子供が立っていました。 子供は太一に微笑みかけると、話はじめました。 『僕がこの神社の神様だよ。大昔に、この地に隕石に乗って宇宙から飛来した未知のウイルスなんだ。 僕は、人や動物の思考回路に干渉して自在に幻覚を見せる能力を持っているんだよ』 「え……?」 太一は信じられないという表情で言いました。 健太は太一の横で困惑していました。 「太一、何を言ってるんだ?誰と話してるんだ?」 健太は太一の目線の先には何も見えなかったからです。 太一は健太に言いました。 「あそこに、子供がいるんだよ。神社の神様だって言ってる」 「え?どこに?」 健太は目を凝らしましたが、やはり何も見えませんでした。 子供は太一に言いました。 『君以外には僕の姿や声は見えないよ。僕は君にだけ特別な幻覚を見せてるんだ。君は怪異が見える体質だからね』 「怪異が見える……、 確かにそうだね」 太一は自分の特異体質を思い返しました。 子供は太一に言いました。 『君と話したかったんだ。君なら僕の話を聞いてくれると思ったんだ』 「話?どんな話?」 太一は興味深く聞きました。 『あの大型犬の正体や、僕の能力や、僕とある女性との関係についてだよ』 「女性?」 太一は不思議そうに言いました。 『そう、お婆さんだよ。彼女と僕は昔から仲良しだったんだ』 「お婆さん?どこのお婆さん?」 太一は思い出そうとしましたが、その時、ある女性の声で現実に引き戻されました。 「あら、こんにちは。あなたたちはこの神社にお参りしに来たの?」 気がつくと太一の目の前には、介護ヘルパーの人が引いた車椅子に乗った高齢のお婆さんがいました。 「突然、驚かせてしまって悪かったわね。 私の名前はオトキ。 昔から目の病気でね……」 オトキさんは生まれた時から両目が見えないらしく、もう歳で長く生きられないことを太一に話しました。 オトキさんは笑顔で会釈をして、神社を後にして行きました。 オトキさんが去った後、太一に神社の神様と名乗る子供の声が再び響いてきました。 『ねえ、話の続きを聞いてくれる?』 太一は子供の声に答えました。 「うん、聞くよ。でも、どこにいるの?」 『ここだよ。君の隣だよ』 太一は横を見ましたが、やはり子供の姿は見えませんでした。 子供は太一に言いました。 『僕は君の意識の中に入ってるんだ。だから、君は僕の声を聞いたり、僕の姿を頭の中でだけ感じることができるんだ』 「意識の中……」 太一は不思議な感覚に戸惑いました。 子供は太一に言いました。 『僕は君に色々なことを教えてあげたいんだ。僕とオトキさんとの物語をね』 「物語?」 太一は興味深く言いました。 子供は太一に言いました。 『そう、物語。僕とオトキさんとの不思議で切なくて美しい物語だよ』 「それなら聞きたい」 太一は素直に言いました。 『じゃあ、始めようか。僕とオトキさんとの物語は、こう始まったんだ……』 子供は太一にそう言って、昔話のような口調で語り始めました。 『オトキさんはこの山の村で生まれ育ったんだ。でも、彼女は生まれた時から両目が見えなかったんだ。だから、村の人たちは彼女を不憫に思って、色々と手助けしてあげていたんだよ』 「色々と?」 太一は質問しました。 『例えば、彼女が小さい頃には、村の人たちが集めたお金で盲導犬を買ってあげたんだ。その犬の名前は色って言ったんだ。オトキさんは色が大好きで、いつも一緒に遊んでいたんだよ』 「盲導犬?」 太一は驚きました。 『そう、盲導犬。目の見えない人の手助けをする犬だよ。色はとても賢くて優しくて、オトキさんの目代わりになっていたんだよ』 「すごいね」 太一は感心しました。 『でもね、オトキさんが幸せだったのはそれほど長くなかったんだ。この地域にダムが出来た次の年だったと思う。記録的な大雨が降ってダムが決壊したんだ』 「ダムが決壊?」 太一は恐怖しました。 『そう、ダムが決壊。その時、地域の他の人達は速やかに避難したんだけど、目が見えないオトキさんは逃げ遅れて家ごと壊れて流されてしまったんだ。色はオトキさんの襟首を加えて、濁流から河岸へとお婆さんを引っ張りだしたんだけど、 色自身はその直後力尽きて流されて死んでしまったんだ』 「色が……」 太一は悲しみました。 『相棒で心の支えだった色の死に、オトキさんは三日三晩泣いていたんだ。僕はそんなオトキさんの悲しむ声に呼び寄せられたんだ』 「呼び寄せられた?」 太一は疑問に思いました。 『僕はウイルスとしてオトキさんに寄生することにしたんだ。僕はお婆さんの心に入り込んで、彼女に幸せな幻覚を見せることができるんだよ』 「幸せな幻覚?」 太一は興味深く聞きました。 『そう、幸せな幻覚。僕はオトキさんに色が生き返って一緒に遊んでいる夢を見せたんだ。それから、オトキさんは毎日笑顔で夢を見ていたんだよ』 「それはいいね」 太一は微笑みました。 『でもね、僕はオトキさんにだけ幻覚を見せていたわけじゃなかったんだ。僕はオトキさんの周りの人や動物にも幻覚を見せていたんだよ』 「周りの人や動物にも?」 太一は驚きました。 『そう、周りの人や動物にも。 そしてまた、僕はオトキさんが好きなものや楽しいことを見せてあげたかったんだ。 だから、僕はオトキさんに色と一緒に神社に散歩に行く夢を見せた時には、神社の門をくぐった瞬間にオトキさんの目が見えるようにしたんだ。そして、僕はオトキさんの隣に立って、一緒に遊んだんだよ』 「君が……」 太一は目を見開きました。 『そう、僕が。僕はオトキさんに自分の姿を見せたかったんだ。僕はオトキさんと仲良くなりたかったんだよ』 「それで、オトキさんは君のことを……」 太一は納得しました。 『オトキさんは僕のことを幻くんって呼んでくれたんだ。僕もオトキさんのことをトキちゃんって呼んだんだよ』 「幻くんとトキちゃん……」 太一は感動しました。 『僕とオトキさんはすぐに仲良くなったんだ。 僕はオトキさんに色々なことを教えてあげたし、オトキさんも僕に色々なことを教えてくれたんだよ』 「どんなこと?」 太一は聞きました。 『例えば、僕はオトキさんに宇宙や星や惑星のことを教えてあげたんだ。 僕は宇宙から来たウイルスだから、宇宙のことはよく知ってるんだよ。 オトキさんは宇宙のことが大好きで、僕の話に夢中になって聞いてくれたんだよ』 「宇宙の話……」 太一は感心しました。 『それから、オトキさんは僕に山や森や川や花や動物のことを教えてくれたんだ。オトキさんは山の村で育ったから、自然のことはよく知ってるんだよ。オトキさんは自然のことが大好きで、僕に色々な名前や音や匂いや触り心地を教えてくれたんだよ』 「自然の話……」 太一は感動しました。 『僕とオトキさんは毎日楽しく過ごしたんだ。でもね、オトキさんが幸せだったのもそれほど長くなかったんだ』 「どうして?」 太一は不安に思いました。 『オトキさんの寿命が近づいていることを感じたからだよ』 子供は太一にそう言って、悲しそうな表情をしました。 『オトキさんはもう歳で長く生きられないんだ。僕はオトキさんが死んだらどうなるのかわからないんだ。僕はオトキさんが死んだら一緒に死ぬのか、それともまた別の人に寄生するのか、それとも宇宙に帰るのか……』 「宇宙に帰る?」 太一は疑問に思いました。 『そう、宇宙に帰る。僕は宇宙から来たウイルスだから、もしかしたら宇宙に帰れるかもしれないんだ。でも、僕はオトキさんと離れたくないんだ。僕はオトキさんと一緒にいたいんだよ』 「それなら、オトキさんを助けてあげられないの?」 太一は提案しました。 『助けてあげられないよ。僕はオトキさんに幻覚を見せることしかできないんだ。僕はオトキさんの体や心を治すことはできないんだよ』 「じゃあ、どうするの?」 太一は尋ねました。 『僕はオトキさんを幸せにしてあげたいんだ。僕はオトキさんに最後の願いを聞いてあげたんだよ』 子供は太一にそう言って、優しく微笑みました。 『オトキさんの最後の願いは、故郷の山に帰ることだったんだ。オトキさんは山の自然や生き物たちに会いたかったんだよ。僕もオトキさんと一緒に山に行きたかったんだ』 「それなら、山に連れて行ってあげればいいじゃない」 太一は言いました。 『でも、それは簡単なことじゃなかったんだ。オトキさんは病院で入院していたんだ。オトキさんは病気で弱っていて、自分で動くこともできなかったんだ。僕はオトキさんを病院から連れ出す方法を考えたんだ』 「どうやって?」 太一は聞きました。 『僕はオトキさんに幻覚を見せて、色が生き返って馬車を引いてきたと思わせたんだ。そして、大型犬の思考を借りた僕は、オトキさんを馬車に乗せて、病院から抜け出したんだよ』 「馬車?」 太一は思い出しました。 「ああ、あれが……」 太一は健太から聞いた話と子供の話がつながったことに気づきました。 『そう、あれが。 僕は馬車に外からは中が見えない暗示をかけてから、馬車を引く大型犬として病院の敷地内を走り回ったんだ。でも、結局僕はオトキさんが欲しいものを見つけることができなかったんだ』 「欲しいもの?」 太一は尋ねました。 『そう、欲しいもの。オトキさんが山に帰る前に会いたかった人がいたんだ。それが健太くんのお父さんなんだよ』 「健太くんのお父さん?」 太一は驚きました。 『そう、健太くんのお父さん。彼はオトキさんの息子なんだよ』 子供は太一にそう言って、深刻な表情をしました。 『オトキさんは若い頃に結婚したんだ。でも、夫とはすぐに別れてしまったんだ。夫はオトキさんが目が見えないことを理由に、彼女を虐待したり、浮気したり、捨てたりしたんだよ。オトキさんは夫から逃げるために、この山の村に戻ってきたんだ』 「ひどい……」 太一は同情しました。 『でも、オトキさんは一人ではなかったんだ。彼女は妊娠していたんだよ。健太くんのお父さんをね』 「健太くんのお父さんが……」 太一は驚きました。 『そう、健太くんのお父さんが。オトキさんは健太くんのお父さんを産んで育てたんだ。彼女は健太くんのお父さんに愛情を注いで、彼を立派な人間に育てたんだよ』 「それは素晴らしいね」 太一は感心しました。 『でもね、健太くんのお父さんもオトキさんと同じ目の病気を患っていたんだ。彼も生まれた時から両目が見えなかったんだよ』 「え?」 太一は驚きました。 『そう、え。健太くんのお父さんも目が見えなかったんだ。でも、彼はオトキさんと違って、自分の目の状態に不満や恨みを持っていたんだ。彼は自分が目が見えないことで不利な立場に置かれることを嫌って、常に劣等感や怒りを抱えていたんだよ』 「それは辛かっただろうね」 太一は同情しました。 『そう、辛かっただろうね。健太くんのお父さんは学校で勉強したり、友達と遊んだりすることができなかったからね。彼は村の人たちからも差別されたり、いじめられたりしたからね。彼は自分の人生に絶望していたんだ』 「それで、どうしたの?」 太一は尋ねました。 『それで、彼はある日、村を出て行ってしまったんだ』 「村を出て行った?」 太一は驚きました。 『そう、村を出て行った。この地域は今でこそ都市化されているけど、 彼が青春を過ごしたひと昔前はこの地域も貧しい田舎の村だったからね。 彼は自分の目が見えるようになる方法を探すために、村を出て行ったんだ。彼は医者や学者や神秘家などに会って、色々な治療法や手術法や呪術法などを試したんだ。でも、どれも効果がなかったんだよ』 「それは残念だね」 太一は悲しみました。 『そう、残念だね。健太くんのお父さんは自分の目が見えるようになることを諦められなかったからね。彼はどんどんお金や時間や健康を失っていったからね。彼はオトキさんのことも忘れてしまったからね』 「オトキさんのことを忘れた?」 太一は驚きました。 『そう、オトキさんのことを忘れた。彼はオトキさんに一度も連絡をしなかったんだ。彼はオトキさんに会いにも帰ってこなかったんだ。彼はオトキさんの存在を否定したんだよ』 「それは酷い……」 太一は怒りました。 『そう、酷い……。オトキさんは健太くんのお父さんを心配して待っていたんだ。オトキさんは健太くんのお父さんに会いたかったんだ。オトキさんは健太くんのお父さんに愛されたかったんだよ』 「それなら、健太くんのお父さんに会わせてあげられないの?」 太一は提案しました。 『会わせてあげられないよ。健太くんのお父さんは僕の幻覚に気づかないんだ。僕は健太くんのお父さんにオトキさんが馬車に乗ってきたと思わせようとしたけど、彼はそれを無視したんだよ』 「無視した?」 太一は驚きました。 『そう、無視した。彼は僕の幻覚を見破って、馬車に乗ってるオトキさんを認めなかったんだ。彼はオトキさんが目が見えないことを恥じて、彼女を母親と認めなかったんだよ』 「それはひどすぎる……」 太一は悲しみました。 『そう、ひどすぎる……。オトキさんは健太くんのお父さんに拒絶されて、悲しくて泣いたんだ。僕もオトキさんを慰めてあげたかったけど、何もできなかったんだよ』 「それで、どうしたの?」 太一は尋ねました。 『それで、僕はあきらめて、オトキさんを馬車に乗せて、山に向かったんだ』 「山に向かった?」 太一は驚きました。 『そう、山に向かった。僕はオトキさんの最後の願いを叶えてあげることにしたんだ。僕はオトキさんを故郷の山に連れて行ってあげることにしたんだよ』 「それで、山に着いたら?」 太一は聞きました。 『それで、山に着いたら……』 子供の声が途切れました。 「どうしたの?」 太一が尋ねると、 子供は悲しそうに言いました。 『オトキさんが死んだんだ』 「死んだ?」 太一はショックを受けました。 子供は言いました。 『そう、死んだ。僕たちは山の古民家に着いたんだ。僕はオトキさんを布団に寝かせてあげたんだ。オトキさんは僕に笑顔でありがとうと言ってくれたんだよ』 「それは良かったね」 太一は言いました。 『でもね、オトキさんはすぐに眠りについたんだ。僕はオトキさんのそばに座って、手を握ってあげたんだ。オトキさんは安らかな寝顔で、夢を見ていたんだよ』 「どんな夢?」 太一は聞きました。 『色と一緒に遊んでいる夢だよ。僕もその夢に入って、オトキさんと色と一緒に楽しく遊んだんだよ』 「それは素敵だね」 太一は微笑みました。 子供は言いました。 『そう、素敵だね。でもね、その夢が終わった時、オトキさんも終わってしまったんだ』 「終わってしまった?」 太一は驚きました。 『そう、終わってしまった。オトキさんの心臓が止まってしまったんだ。僕はオトキさんの手が冷たくなるのを感じたんだ。僕はオトキさんの名前を呼んだけど、返事がなかったんだよ』 「それは悲しい……」 太一は涙ぐみました。 子供は言いました。 『そう、悲しい……。オトキさんが死んでしまったことが信じられなかったんだ。僕はオトキさんを抱きしめて泣いたんだよ』 「それで、どうしたの?」 太一が尋ねると、子供は深くため息をついて言いました。 『それで、僕はオトキさんの後を追ったんだ』 「後を?どういう意味?」 太一は驚きました。 子供は言いました。 『そう、後を追った。僕はオトキさんが死んだらどうなるのかわからなかったけど、僕はオトキさんと離れたくなかったんだ。僕はオトキさんと一緒にいたかったんだよ』 「それなら、君も追う必要はなかったじゃない」 太一は言いました。 『でも、僕はオトキさんを追うことを選んだんだ。僕はオトキさんの心臓が止まった時に、僕もオトキさんの意識と一緒になって、宇宙に帰ったんだよ』 「宇宙に帰った?」 太一は疑問に思いました。 『そう、宇宙に帰った。僕は宇宙から来たウイルスだから、宇宙に帰れるんだよ。僕はオトキさんと一緒に隕石に乗って、宇宙へと飛び立ったんだよ』 「それはすごいね」 太一は感心しました。 『そう、すごかったんだ。 僕とオトキさんは宇宙で自由に旅をしたんだ。僕とオトキさんは色々な星や惑星や銀河を見たんだよ』 「それは楽しかっただろうね」 太一は微笑みました。 『そう、楽しかったよ。 僕とオトキさんは幸せだったんだよ』 「それなら良かったね」 太一は言いました。 『でもね、僕とオトキさんの物語はここで終わりじゃないんだ』 「終わりじゃない?」 太一は驚きました。 『そう、終わりじゃない。僕とオトキさんの物語は永遠に続くんだよ』 「永遠に続く?」 太一は興味深く聞きました。 『そう、永遠に続く。僕とオトキさんの魂は宇宙で輝き続けるんだよ。僕とオトキさんの魂は時々地球に戻ってきて、人や動物や植物に生まれ変わるんだよ』 「生まれ変わる?」 太一は驚きました。 『そう、生まれ変わる。僕とオトキさんの魂は色々な姿や形で生きていくんだよ。僕とオトキさんの魂はいつかまた出会って、仲良くなるんだよ』 「それは素敵だね」 太一は感動しました。 『そう、素敵だね。僕とオトキさんの物語は永遠に終わらないんだよ。僕とオトキさんの物語は不思議で切なくて美しい物語なんだよ』 「それは本当に不思議で切なくて美しい物語だね」 太一は言いました。 『ありがとう。君に僕とオトキさんの物語を聞いてもらえて嬉しいよ。君も素敵な物語を作ってね』 「ありがとう。君も幸せになってね」 太一は言いました。 そして、子供の声は静かに消えていきました。 太一は子供の声が聞こえなくなったことに気づきました。 「あれ?」 太一は周りを見回しましたが、子供の姿も馬車も見えませんでした。太一は夢を見ていたことに気づきました。 「夢だったのか……」 太一は呟きましたが、その時、健太が太一を起こしに来ました。 「太一、起きろよ。もう昼だぞ」 健太は太一を揺さぶりました。太一は目を開けて、健太に笑顔で返事しました。 「おはよう、健太」 健太は太一の様子に不審そうに言いました。 「おはようって、何を寝ぼけてるんだよ。昨日のこと覚えてるか?」 太一は昨日のことを思い出しました。 「ああ、あれか。大型犬が馬車を引いてるお婆さんを追ってたんだっけ?」 健太は驚きました。 「そうそう、それだよ。 結局大型犬は後日、保健所から再び逃げ出して山に帰ったらしいぞ」 「そっか……」 太一はそれを聞いて安心しました。 「ところで太一、 あれは何だったんだろうな? あのお婆さん、どこ行ったんだろうな?」 太一は健太に心の中で答えました。 (オトキさんは山に帰ったんだよ。そして、宇宙に帰ったんだよ) 太一は健太にそのことを話すべきか迷いましたが、やめることにしました。 (これは僕だけの秘密だ。僕とオトキさんと幻くんの秘密だ) 太一は夜空を見上げました。そこには明るく輝く星がありました。 (あれがオトキさんと幻くんかな?) 太一は星に手を振りました。 (ありがとう。さようなら) そして、太一は健太と一緒に今宵の神社を後にしました。 ※ 第三話からは地の文のスタイルが変わります。 これまでとは異なる地の文ですが、 引き続き物語をお楽しみいただけると幸いです。「私は何も言ってないよ!」 葉奈がそう言った瞬間、空間が揺らぐ。 言葉が響いたはずなのに、耳に届いた音は掠れていた。 「私は何も書いてないよ!」 彼女の指先が淡く透け、まるで存在が薄れるかのようだった。 空気が変わる。 太一は息をのむ。 どうして、こんなことが起こるのか。 どうして、妹・葉奈の声が消えかけているのか。 彼は分からなかった。 だが、葉奈の口から発された無責任な言葉が—— 彼女自身の存在を侵食していることだけは、確かだった。 ある日、太一は異変に気づいた。 葉奈の声が、どこか不自然に響く。 そして、矛盾した発言をするたび、体がわずかに薄くなっていくのだ。 「私は何も言ってないよ!」 その瞬間、彼女の声がかすれ、少し小さくなった。 「私は何も書いてないよ!」 その瞬間、彼女の指先が薄れ、まるで霧のようになった。 「この話は誰にも言っちゃいけないことだからね、いい?」 彼女の瞳が、どこかぼやける。 最初は誰も気に留めなかったが、太一だけははっきりと異常を感じていた。 このままでは——葉奈が、この世界から消えてしまう。 太一は決意し、その夜、神社の鳥居をくぐった。 狐のお面をかぶった青年が、そこにいた。 「お前の妹は、言霊の檻に囚われたな。」 青年は、まるで太一の妹の運命を知っているかのように告げる。 「言葉は、ただの音ではない。 それは、世界を縛る力だ。 無責任な言葉を発した者は、その重みを背負うことになる。 お前の妹は——自分自身を矛盾させることで、消えかけている。」 「どうすれば助けられる?」 太一は必死だった。 青年は肩をすくめる。 「簡単だ。お前の妹に真実の言葉を語らせろ。 矛盾のない、自らを定義する言葉だ。」 「……真実の言葉?」 狐面の青年は、太一に問いかける。 「お前の妹は、誰のために生きている?」 「……家族のためだと思う。 俺たちに迷惑をかけたくないって、いつも思ってるみたいだった。」 青年は苦笑し、「それは違う」と言った。 「お前の妹は、自分のために生きていない。 だからこそ、自分の言葉が軽
前回のあらすじ: 【太一と遥音は、幼い頃からの思い出を分かち合いながら、長い間抱えていたわだかまりと後悔をようやく打ち明ける。互いを傷つけた過去、謝ることができなかった時間を乗り越え、二人は心を通わせる。 過去の楽しい日々、そして最後に交わした冷たい言葉――その痛みを乗り越え、太一は遥音に心からの謝罪を伝え、遥音もまた彼の言葉を待っていたことを告げる。時を経て再び向き合った二人は、幼い頃に交わした約束を思い出す。「ずっとそばにいる」と誓い合ったあの日。その約束を果たせなかった悔しさが胸を締めつける。遥音の瞳には、ほんのわずかに涙が滲んでいたが、その奥には太一への変わらぬ想いが宿っていた。 優しく微笑む遥音の姿に、太一は涙を流しながら彼女の頬に触れる。そして、ふたりの想いが交わる瞬間、あふれる記憶とともに、遥音は光の中へと消えていく。その瞬間、太一は不思議な温もりに包まれ、遥音の囁きが微かに聞こえた。「ありがとう、ずっと忘れないよ」――静寂の中、太一は空を見上げ、胸の奥に響く遥音の言葉をそっと抱きしめるのだった。――。】 目を覚ますと、太一は自室のテレビの前にいた。 薄暗い部屋の中、かすかに差し込む朝の光がカーテンの隙間から揺らめいている。 彼が不意に視線を落とすと、手の届く場所にあるゲーム機がふと目に入った。 その姿は変わらない。けれども――壊れていた。 もう、再び起動することはない。 何度電源を押しても、何度コードを繋ぎ直しても、 彼の手元で動き出すことはなくなってしまった。 「……これで、本当によかったのかな」 囁くような声が、静かな部屋に溶けて消えていく。 太一はそっとゲーム機を撫でた。 その表面には、長年触れてきた感触が染み付いている。 数え切れないほどの時間を、この画面の前で過ごした。 それは、遥音との最後の時間を刻んだ場所でもある。 「……またね、遥音ちゃん」 その言葉がこぼれ落ちると同時に、太一は静かに立ち上がった。 ぎしり、と床が軋む音がする。 窓の外には青空が広がり、柔らかな風が木々を揺らしていた。 太一はゆっくりと玄関へ向かい、靴を履くと外へと踏み出した。 向かった先は、遥音の墓。 墓地へ続く道は、静かで落ち着いた雰囲気に包まれていた。 遠くで鳥のさえ
前回のあらすじ: 【王国の玉座前で始まった謎の決闘。姫の掛け声と共に始まったのは、まさかの「ラジオ体操アルティメットリミックス」。 太一はウラ拍やオモテ拍のリズムに翻弄され、混乱の渦に巻き込まれる。 一方、余裕の青年は完璧な動きでリズムを制圧する。 しかし、カエルの謎のボーカルが入り乱れ、さらに状況はカオスにな展開に。 ミスを検知する審判・ボム師範の厳しい目が光る中、追い詰められた太一は突如覚醒。何かしらの謎の力により、完璧な跳躍とリズムの波動を掴み、カエルのテンポさえもシンクロ。 その瞬間、場の空気が一変し、観衆は息を呑んだ。 太一の動きに合わせて床が共鳴し、リズムの波が王国全体を揺るがす。 青年も動揺しながらも全力で応戦し、激しい応酬が続く。 最後の決め技が炸裂し、太一は完璧な着地を決める。 ボム師範の「勝者、太一!」の宣言とともに、王国中が歓声に包まれた。】 「僕ね……実はずっと、遥音ちゃんに言いたかったことがあるんだ」 太一は、小さく震える声で言葉を紡ぐ。 「僕は……あの時、君を傷つけた」 遥音は、ゆっくりと目を伏せる。 「私も……太一君を傷つけた……」 いや違う――。 「僕は……僕は、君にちゃんと謝らなかった」 遥音の瞳が潤む。 「私も……ずっと謝りたかったの……」 二人の心が、静かに重なる。 幼い日の記憶が、ゆっくりと巡り始める――。 僕たちは、ずっと一緒だった。 夏の日、木陰で並んでアイスを食べたこと。 「ちょっと溶けてるよ」 遥音が笑いながら言ってくれたこと。 春の日、桜の下でお互いに夢を語ったこと。 「僕たち、大人になったら、どんな風になるのかな?」 僕は、何も気にせず「楽しい人生を送りたい」と言った。 でも、遥音は。 「私は……ずっと、太一君のそばにいたい」 あの日の言葉が、今になって胸に刺さる。 そして、最後の日――。 「そんなの、知らない!!」 遥音は怒っていた。 「だったら勝手にすれば?」 僕も、彼女に冷たく言い返した。 あの日、僕は何も知らずに、何も考えずに言葉を投げた。 遥音は、小さく眉をひそめていた。 でも―― それが、彼女と
あらすじ: 【王宮の玉座前に巨大な和太鼓が運ばれ、試合が始まる。主人公・太一は、貴族の青年との太鼓勝負に挑む。青年の演奏は芸術的な腕前で、太一も必死に食らいつくが、指がほんの一瞬ズレたことで敗北してしまう。しかし、なぜか試合に関係ないオッサンがボム師範によって爆破され、謎の展開で幕を閉じる。】 「次は……ラジオ体操で勝負よ」 姫が高らかに宣言すると、まるで魔法のように、玉座の前に謎のステージが現れる。 黄金の縁取りがされた床には、なぜか巨大なスピーカーがいくつも設置されていた。太一の目が点になる。 「いや、なんでこの流れでラジオ体操!?!?!?」 叫ぶ太一をよそに、審判役のボム師範は深く頷きながら腕を組んだ。 もはや疑問を挟む余地はないというような顔だ。 「極めれば極めるほど、体の芯からリズムを感じられるものだ……」 青年は余裕の笑みを浮かべながら、体操の構えをとった。背筋を伸ばし、ゆったりと足を開く。 その姿はまるで戦場に立つ剣士のように堂々としていた。 そして―― 「ラジオ体操アルティメットリミックス、開始!!!」 突如、スピーカーから謎のおじさんの掛け声が爆音で流れ始める。 「ハ、ハ〜イ、!ホ!ホ!ホ!ホ!!」 その瞬間、会場全体が震えた。ステージの床からビートが伝わり、空間そのものがリズムに乗っているかのようだった。 青年はすぐさまテンポを掴み、流れるように腕を振る。 しかし――太一は全く理解できていない。 「え!?どっち!?オモテ!?ウラ!?!?」 腕を振る方向を誤り、ボム師範がピクリと反応する。 観客席にいるオッサンはひそかに太一を応援していたが、彼も困惑している。 「ミス検知中……」 冷たく響く判定の声。太一の額に汗がにじむ。 「やばいよやばいよ!!」 ぎこちなく動く太一を見て、オッサンはオロオロしている。そんな中、 青年は完璧な動きでウラ拍とオモテ拍を交互にこなし、まるでリズムを制圧しているかのようだった。 突然、スピーカーから謎の歌声が響き渡る。 「ゲロッ!ゲロ!ゲロ〜!!」 「ちょ!!歌付いたぁぁ!?!?」 ラジオ体操なのに、どこからか現れたカエルのボーカルが謎の曲を歌い始める。そのメロディーがラジオ体操のリズムを狂わせる。
前回のあらすじ: 【太一とオッサンは魔法使いの試練を乗り越え、王の謁見の間にたどり着く。しかし、囚われているはずの姫はそこに普通におり、彼女の隣には気品ある貴族の青年が立っていた。驚く太一に、姫は自分がさらわれたのではなく、政略結婚でこの城へ来ただけだと告げる。完全な勘違いに絶望する太一と、責任逃れしようとするオッサン。混乱の中、姫は太一に対決を申し込む。貴族の青年とのゲーム勝負に勝てば姫が太一の願いを聞き、負ければ貴族の願いを聞くという条件。競技は「太鼓」と「ラジオ体操」という謎のルールで行われることになり、騒然とする場の空気の中、勝負の幕が上がる――。】 姫の宣言が玉座の間に響き渡ると、重厚な音とともに巨大な和太鼓が運び込まれた。 漆黒の太鼓皮が厳かに輝き、装飾された木枠が高貴な雰囲気を醸し出している。 周囲の貴族や侍従たちは息をのんで見守り、試合の緊張感が一層高まっていった。 「……本当にこれで決めるの?」 太一は目の前の太鼓を見つめながら、バチを握りしめる。 彼の眉間には深い皺が刻まれ、決断の重みがのしかかっていた。 対する貴族の青年は、既に余裕の笑みを浮かべ、まるで勝利を確信しているかのようだった。 「君が勝てば、願いをひとつ叶えてもらえるんだ。 やるしかないだろう?」 青年は挑発するような口調で言い放つ。 その言葉に、太一はぐっと歯を食いしばる。 望みを叶えるには、この試合に勝つしかない。 しかし、青年の表情と姿勢からは、圧倒的な自信が感じられた。 彼はただ者ではない。そう思った瞬間、太一の心に不安が広がった。 「くっ……」 ため息をつきながらも、太一は覚悟を決めてバチを強く握り直す。そして―― 「試合開始!!」 姫の号令と同時に、貴族の青年が美しいフォームでバチを振るった。 まるで舞うように軽やかで、 洗練された動き。 静寂を切り裂くように響く太鼓の音―― 「ドン!カッ!ドドン!カカッ!」 そのリズムは、まるで芸術品だった。均整の取れた音の流れが、空間を支配する。 観客たちは息を呑み、彼の卓越した技術に魅了されていく。 太一は圧倒されるように呆然とした。 「うまっ……!!」 戦う前から、すでに彼の敗北が決まったような気すらした。 しかし―
前回のあらすじ: 【太一とオッサンの前に突如として巨大な魔法陣が出現。異次元の魔法使いが現れ、戦闘ではなく「クイズの試練」を課すことに。次々と難問が出題されるが、オッサンの的外れな回答のせいで罰ゲームが発動。空腹のワンちゃん軍団がじわじわと迫り、試練が進むごとに彼らの動きは加速。最後の問題で太一が「円」と正解を叫ぶと、魔法陣が輝き、ワンちゃん軍団の進撃は止まる。そして魔法使いは満足げに微笑み、門を開いた。こうして太一たちは次のステージへと進むことができた】 魔法使いのクイズを乗り越えた太一とオッサン。 彼らの前に広がるのは荘厳な王の謁見の間だった。 漆黒の石造りの壁には荘厳な紋章が刻まれ、天井からは煌めくシャンデリアが輝いている。中央には立派な玉座が鎮座し、その豪華な装飾には黄金と宝石がふんだんに散りばめられていた。床には長い赤い絨毯が敷かれ、歩くたびに静かに沈み込む柔らかさを感じる。 しかし―― 「え……、何で……?」 太一は目を疑った。 その玉座の前にいたのは、囚われているはずの姫―― しかし、彼女の隣には、背中に弓と片手剣を背負い、緑色の上下の軽装をし、緑の頭巾を被った気品のある貴族の青年が立っていた。鋭くも穏やかな瞳がこちらを見つめ、その整った顔立ちには余裕の笑みが浮かんでいる。 「な、なんで姫が普通にそこにいるの……!?」 戸惑う太一をよそに、オッサンは辺りを見回す。 「こ、これはドッキリ……そうでしょ、姫?」 オッサンが興奮気味に叫ぶ。 しかし姫は静かに微笑みながら答えた。 「私は……囚われていたわけじゃないの」 そして―― 衝撃の事実が語られた。 姫はさらわれたのではなく、政略結婚によってこの城へ来ただけだった――! 「えぇぇぇぇぇぇ!?!?」 「つまり……オッサンとクリマッチョの完全なる勘違いじゃないかぁぁ!!」 太一が頭を抱えて絶望する。 「……あぁぁぁぁぁ!?!?クリマッチョはどこ行ったかなぁ〜!?」 オッサンはそう白々しく呟くと、太一に見つからないよう、ゆっくりとその場を立ち去ろうとする。 しかし―― 太一の怒りの矛先はオッサンへと向き、場の空気が一気に険しくなる。 「ち、違うんだ!オレは悪くねぇ!ク